リターンは正規分布に従っていない
こんにちは、悪口と資産運用が大好きな悪口投資家です。
↑のような積立投資シミュレーション的なサイトを見ると、こっそりとリターンが正規分布することが仮定されている。 もちろん、確率的なブレを考慮せず「年〇%のリターン」を仮定したシミュレーション*1よりは、めちゃめちゃマシではある。 しかし、残念ながらリターンは正規分布しているとは言い難いので、この記事ではS&P500(先物)の日次データ*2を見て確認していく。
ヒストグラムは裾が厚い
↑の図はS&P500の日次リターンのヒストグラムと、ヒストグラムに合いそうなそれっぽい正規分布である*3。 尚、図が見づらくなるので外れ値は外してある*4。
見てわかる通り、正規分布より裾が厚い分布(ファットテール)になっている。 つまり、正規分布よりも極端な値を取りやすいということである。 暴騰する分には困らないが、暴落すると困るのであまり嬉しくない性質である。
waruguchinvest.hatenablog.com ファットテールになる理由の一つは、↑で見たように時期によってリスクの大きさが違うためである。 平常時の幅が細い(リスクが低い)分布と、ショック時の幅が広い(リスクが高い)分布が混ざっていると、ファットテールな分布に見える。
歪度は負で尖度は正
歪度と尖度という統計値がある(定義は↑を参照のこと)。 今回のデータで歪度と尖度を計算してみると、歪度は-2.3で尖度は71.7であり、リターンの分布は左に歪んでいて、裾が厚いということがわかる。 つまり、暴騰より暴落が起きやすく、極端な値を取りやすいという嬉しくない性質を持っていることがわかる。
このような性質がある以上、正規分布によるシミュレーションよりも保守的な想定をしておくのが賢明である。
リターンの予測は難しいがリスクの予測はある程度可能
こんにちは、悪口と資産運用が大好きな悪口投資家です。
インターネットで資産運用について調べると「S&P500はどんな暴落も乗り越えて年〇%のリターンを上げてきた!S&P500最強!いつもいつでもS&P500を信じて積立!」というようなインデクサー*1のブログがヒットする。 しかし、残念ながら過去のリターンを以って将来のリターンを予測するのは難しい。 この記事では、リターン予測の困難さとリスクはある程度予測できるということをSPY*2のデータを使って説明する。
使用データ
SPYのデータは↑からダウンロードした値を用いる。 期間は1993年2月~2021年3月である。
今月のリターンから翌月のリターンを予測することは難しい
↑の図はSPYの月次リターンの推移である。 見てわかる通りギザギザしており、予測が難しそうな感じがする。
横軸をある月のリターン、縦軸をその翌月のリターンにとして散布図を描いたのが↑のグラフである。 どう見ても無相関に見えるが、相関係数を計算してみると0.03とほぼ無相関である*3。
というように、今月のリターンを使って翌月のリターンを予測することは難しそうであることがわかった。 ちなみに、月次リターンではなく日次リターンや週次リターンを使っても同様の結果が得られる。
リスクはある程度予測できる
↑の図はSPYの日次リターンの推移である。
月次リターンの場合と同様、ギザギザしていて予測は難しそうであるが、よく見るとギザギザ度合いは時期によって異なることがわかる。 たとえば、2000年代後半のリーマンショックや2020年3月のコロナショックの時期には他の時期よりも振幅が大きいのがわかるだろう。
ざっくり言うと、振幅の大きさがリスクの大きさである。 リスクの大きさは時間変動しているが、グラフを見るとリスクの大きさにはある程度の継続性がある気がする。
ある月の日次リターンの標準偏差(を年率換算したもの)をその月のリスクとして、翌月のリスクとの散布図にしたものが↑である*4。 見てわかる通り、順相関である。 実際、相関係数を計算すると0.65である*5。
↑の図は各月のリスクの大きさの推移をグラフにしたものである。 グラフからわかるように、リスクの大きさは一定ではない。 しかし、リスクの大きさは時期によって変わるが、ある程度の継続性がある。 リターンの予測は難しいが、リスクの予測はある程度可能なのである。
最適なレバレッジ比率を考えると株にレバレッジを掛けるのは微妙
こんにちは、悪口と資産運用が大好きな悪口投資家です。
レバレッジ投資信託やレバレッジETFという金融商品があって、個人投資家に結構な人気がある*1。 これらの商品は、日々の値動きが日経平均やS&P500など*2の値動きの倍になるように設計されている*3。
具体的なレバレッジ比率としては、2倍や3倍のものが多いが、↑のように4.3倍というものもある。 資産を最大化したい場合には、何倍のレバレッジを掛けるのがよいのだろうか? 実は理論的に最適なレバレッジ比率を求めることができるので、説明したいと思う。
レバレッジを掛けすぎてもダメ
期待リターンがプラスの資産に投資する際には、レバレッジを掛ければ掛けるほど儲かりそうな気がするが、これは間違いである。 たとえば、100倍のレバレッジを掛けると、1%株価が下落しただけで投資資金を失うことになる。 なので、0倍(投資しない場合)と100倍(破産する場合)の間のどこかに最適なレバレッジ比率があることがわかる。
シャープレシオ÷リスク倍のレバレッジを掛けるのが正解
実は、資産のリターンが対数正規分布に従うことを仮定すると、資産を最大化するために最適なレバレッジ比率を求めることができる。
細かい計算を書くとアクセス数が伸びないので結果だけ書くと*4、
になる*5。
S&P500の例
↑で過去30年くらいのデータから計算した値を使うと、S&P500では、
- シャープレシオ=0.36
- 年率リスク=0.198
なので、最適なレバレッジ比率は、1.8倍である。 という訳で、過去と同程度のリターンやリスクになると思う*6のであれば、S&P500のレバレッジ商品にフルベットするのはやめたほうがよい*7。
ハーフケリー
更に難しい計算なので詳細は省くが*8、 ケリー基準に従って投資をすると、途中でかなりの含み損を抱えることがあり、メンタルに多大な負担がかかりうる。 メンタルの軽減するためのギャンブラー*9の経験則に「ハーフケリー」というものがある。
ハーフケリーとは、ケリー基準の最適解の半分(ハーフ)だけ賭けようという非常にシンプルな戦略である。 レバレッジをケリー基準の半分にすると、リスクは半分になるが、期待リターンは4分の3にしかならない。 逆に言うと、期待リターンの4分の1を放棄することで、メンタルへの負担を半分にすることができる。
先程のS&P500の例で言えば、ハーフケリーによって推奨されるレバレッジ比率は0.9倍になる*10。 過去と同程度のリスク・リターンを期待するのであれば、全財産S&P500インデクサーすら避けたほうがよい。 ハーフケリーに基づいてレバレッジ2倍で投資するためには、過去の2倍強のリターンが必要になるが、長期的に妥当な水準とは思い難い。 今後の株式市場にかなり強気の見方を持っているのでなければ、株にレバレッジを掛けるのは微妙である。 *11
*1:SBI証券の売買代金ランキング上位にはよく日経平均レバレッジETF(1570)がいる。
*3:先物取引等を使って純資産のX倍のエクスポージャーを取るように投資している。
*4:en.wikipedia.org 細かい計算に興味がある人は↑を参照してほしい。
*5:これをケリー基準と言う。
*6:リスクについては長期的な水準は過去とほぼ変わらないと考えてよさそうであるが、期待リターンについては予測が困難であり、どう考えるかは人それぞれである。
*8:http://www.eecs.harvard.edu/cs286r/courses/fall12/papers/Thorpe_KellyCriterion2007.pdfwww.eecs.harvard.edu細かい計算は↑。
*9:ケリー基準は元々ギャンブルのための公式である。
*10:どういう理屈かは知らないが、バフェットもS&P500に90%を推奨しているらしい。
*11:waruguchinvest.hatenablog.com 債券については、↑で計算したようにリスクが低いので多少悲観的にリターンを見積もっても、ある程度のレバレッジは否定されないだろう。
米国債にレバレッジを掛ける
こんにちは、悪口と資産運用が大好きな悪口投資家です。
↑で「残念ながら、2021年現在、日本の個人投資家が米10年債先物にレバレッジを掛けて投資することは難しいが、代替物が存在しない訳でもない。 具体的な代替物については次回以降に説明したいと思う。」と結んでおきながら、続きを書いていなかったので書く。
先物取引・CFDを使う
先物取引を使えば、非常に低い取引コストでレバレッジを掛けることができるが、 残念ながら米国債の先物は取引単位が1単位1000万円以上と非常に高い。 また、主要なネット証券では米国債先物の取り扱いがない(っぽい)。
www.ig.com CFD(FXの為替以外版)はIG証券で取り扱いがあるようだが、こちらも先物同様、取引単位が大きすぎる*1。
レバレッジを掛けずに長期債を買う
waruguchinvest.hatenablog.com で長期債は短期債よりリスクが高いという話をした。 単に債券に大きなリスクを配分したいということであれば、レバレッジを掛けるのではなく、より年限の長い債券を買うという方法もある*2。
信託報酬はいずれもかなり低い(一番高いTLTでも0.15%)。 投資している債券の年限の違いにより、BLVが比較的低リスクで、EDVが比較的高リスクになっている。
レバレッジ投資信託を買う
以前、米国10年債先物にレバレッジを掛けるのは難しいと述べたが、実は米国10年債先物4倍レバレッジ投資信託が存在しているようである。 ただし、信託報酬は1%超えだったり、3年おきに償還・設定を繰り返すシリーズものだったりと、使いづらい感じではある。
レバレッジETFを買う
finance.yahoo.com 現時点で日本から購入できる米国債レバレッジETFはこれだけ(のはず)である。 要するに、TLTに3倍のレバレッジを掛けた商品で、年率リスクは驚異の40%*4である。 信託報酬は1%を超えるが、取っているリスクの大きさを考えるとそこまで高くないと思う。
レバレッジバランスファンドを買う
債券が組み入れられたレバレッジバランスを買うことで、債券にレバレッジを掛けるという方法もある。 債券のみをたくさん保有したいのでなければ、これらのファンドをベースに単一資産の投資信託やETFで比率・リスクを調整するのがいいだろう*6。
長期債と短期債のリスクやリターンを比較してみる
こんにちは、悪口と資産運用が大好きな悪口投資家です。
以前、長期債と短期債のリスクについて数式をごちゃごちゃ書いて説明した*1。 今回は、数式なしで過去のデータの話をしていこうと思う。
使用データ
tradingcharts.com 今回も持っているデータの都合上、↑のサイトから購入した先物のデータを用いる。 期間は1991年12月~2020年10月*2である。
見ていく先物は、
の4種である。
2年債先物 | 5年債先物 | 10年債先物 | 30年債先物 | |
---|---|---|---|---|
2年債先物 | 1 | 0.93 | 0.85 | 0.71 |
5年債先物 | 0.93 | 1 | 0.97 | 0.86 |
10年債先物 | 0.85 | 0.97 | 1 | 0.93 |
30年債先物 | 0.71 | 0.86 | 0.93 | 1 |
4つの年限の相関は↑の通りで、いずれもほぼ同じように動くことがわかる。 特に近い年限同士は非常に高相関である。
長期債はコスパが悪かった
↑のグラフを見ればわかる通り、年限が長くなるほどリターンが出ている。 また、年限が長いほどグラフがギザギザしているのもわかるだろう。
2年債先物 | 5年債先物 | 10年債先物 | 30年債先物 | |
---|---|---|---|---|
年率リターン | 1.3% | 2.8% | 4% | 5.2% |
年率リスク | 1.6% | 4.0% | 6.0% | 9.9% |
リターン÷リスク | 0.78 | 0.7 | 0.66 | 0.53 |
統計値を見れば、年限が長いほどハイリスク・ハイリターンであることがわかる。 ただし、リターン÷リスク(リスクあたりのリターン)で見ると、年限が短いほど値が高い。 つまり、この期間は長期債ほどコスパが悪く、レバレッジを掛けた短期債に劣っていたということである。
年限が短いほど政策金利の影響を受ける
イールドカーブの左端(最も短期の金利)は政策金利であり、中央銀行がコントロールしている*3。 年限が近い金利(債券価格)同士は強く相関するので、年限が短い債券ほど政策金利の影響を強く受ける。 歴史的な低金利環境が長引いた場合、短期債のリターンはほとんど見込めないかもしれない*4。
無能は為替に投資しない方がいい
こんにちは、悪口と資産運用が大好きな悪口投資家です。
↑の記事で、長期の期待リターンがプラスか怪しい資産として「為替」を挙げた。 この記事では、基本的に為替の期待リターンはゼロだと思っておいた方がいい、ということを説明したいと思う。
為替はゼロサムゲーム
為替に積極的に投資しない方がいい理由を端的に言うと、ゼロサムゲームだからである。
例として、USD/JPYをロングすることを考える。 このとき、貴方にUSD/JPYをロングさせるために、誰かがUSD/JPYを同じだけショートしている。 貴方が儲かれば誰かが同じだけ損するし、貴方が損すれば誰かが同じだけ儲かる。 なので、全員の為替の損益を合計すると0になる。
言うなれば為替はババ抜きなので、他人にババを押し付けられない無能は為替に投資しない方がいい。 まあ、期待値0なので、投資したところでスプレッド以外に損もしないはずであるが……*1
キャリートレード等について(有能向け)
金利の低い通貨を売り、金利の高い通貨を買って、金利差*2だけ儲けることを狙うキャリートレードというトレードがある。 理論上はキャリートレードでは儲からないことになっている(金利平価)が、実際はそうでもない。
↑は為替に関する色々なトレード戦略*3の有効性を検証したものである。 古いレポートなので、10年前でグラフが終わっているが、同様の結果は各所で報告されている。
有能はこれらの戦略を改良したり組み合わせたりしてみてもいいかもしれない*4。
長期債の方が短期債よりリスクが高い理由をざっくり説明する
こんにちは、悪口と資産運用が大好きな悪口投資家です。
で長期債の方が短期債よりリスクが高いという話をした。 今回はその理由を簡単に説明したいと思う。
金利と債券価格の関係
毎年円の利息が支払われ、年後に元本円が返済される債券(年債)を考える。 この債券のキャッシュフローを書き出してみると、
- 1年後:円もらえる
- 2年後:円もらえる
- 年後:円もらえる
- 年後:円もらえる
といういう風になる。このとき、
とすると、債券価格は、年後のキャッシュフローを倍して現在価値に直したものの和なので、
になる*2。 この式を見ると明らかに債券価格は金利の減少関数である。なので、金利が上がる(下がる)ことと債券価格が下がる(上がる)ことは同値である。
なぜ長期債は短期債よりリスクが高いか
金利が変化したときの債券価格の感応度をデュレーションと呼ぶ*3。直感的には、金利が1%上がったときに大体*4何%損するかという意味になる。式で書くと、
である*5。次元がなので、次元は時間(年)である。
年債の例で計算すると、
になる。普通の状況だと、に比例する項が一番効くので、長期債の方がデュレーションが長くなる。 短期金利も長期金利も同程度に変動する*6と思うと、デュレーションが長いほど債券価格の変動率も高くなるので、リスクが高くなる。
デュレーションの具体例
ここで具体的な債券ETFでデュレーションの値を確認してみる。
ブラックロックの債券ETFであるAGGとTLTのデュレーション*7を↑のリンクから調べると、AGGのデュレーションは6年強、TLTのデュレーションは18年強であり、TLTの方が3倍程度デュレーションがあることがわかる。つまり、TLTの方がAGGよりはるかにリスクが高いので、同じ米国上場の債券ETFだからといって同一視すると、リスク量を見誤ることになる。